日本の赤ちゃんは、英語のLとRを聞き分けられる?(医長が教える子どもの健康 2019年11月号) |
日本人は、英語の L とR の発音の聞き取りが苦手です。日本語では、LとRを聞き分ける必要がありません。では、言葉を覚える前の赤ちゃんはどうか? 種々の実験によると、生後半年くらいで、日本語で育つ赤ちゃんでも、LとRを聞き分け出来ます。大人になって、LとRを聞き分ける能力は、いったいどうなったのでしょう? それは、LとRを聞き分ける刺激がないため、シナプスが刈込まれてしまったのです。
シナプスとは、神経による情報を伝えるために、設けられた接続部です。生後、6カ月から12カ月に掛け、脳内のシナプスは急激に過剰になるまで造られます。しかし、環境や経験に応じ、必要なシナプスは残り,不要なシナプスは刈込まれ、減少するのです。シナプスの刈込みは、成熟した機能的、効率的神経回路を作るため必須となります。例えば自閉症では、シナプスの増大に比べ、シナプスの刈込みが小さい、と考えられているのです。
ヒトだけでなく、生後間もない動物の脳でも、過剰にシナプスが形成、シナプス刈込みが行われています。刈込まれるなら、過剰にシナプスを形成する必要が、果たしてあるのでしょうか? 実は過剰なシナプス形成が、赤ちゃんの生存に有利なのです。どんな環境で生まれ落ちたとしても、適応的に生きていける可能性を高くしています。
小児期の脳では、シナプスの刈込みに伴って、灰白質の量も減少します。灰白質とは、核存中の神経細胞の本体が密集している場所です。灰白質は、大脳や小脳の表層を占めます。東北大学の研究によると、子供の長時間のテレビ視聴で、言語能力を司る領域の灰白質の減少量が少なかったそうです。言葉の遅い子にテレビ視聴時間の、長い例が多いことの関連が示唆されます。
読書習慣は、過剰な神経線維を刈込み、髄鞘化を起こします。髄鞘化とは、神経線維に髄鞘(カバー)を付けることで、情報を早く効率良く伝達するのです。反復する刺激があれば、髄鞘化は、促進されます。何度も何度も、読み聞かせを欲する子ほど、言葉の修得が早いことはよくあることです。また、読み聞かせは、親子共々深い愛情の思い出となります。
生後24週頃、ママのおなかの中で、耳の聞こえが完成します。もう既におなかの中で、赤ちゃんはママの声を聞いているのです。生下時、男性よりも女性、他の女性よりもママの声に反応します。母乳をあげる時、赤ちゃんに声掛けをしてあげて下さい。赤ちゃんは、ママの口元の動きを、じっと見るようになります。手が動く口元に、伸びることも。目と耳と触覚で確認しているのです。子供はママの行動を見て、真似ようとします。言葉の発達も真似ることから始まるのです。ママの習慣まで、子供は真似ます。いつの日か子供が親になり、読み聞かせの習慣はきっと、わが子に続く、正の世代間連鎖となることでしょう。